子どもたち、スタッフと、ただ一所懸命。
生きてるというか、生かされてる?
すごく優秀な大学生なのに、「自分はこうしたい」というものがなくて、何をすればいいかわからない。そんな悩みを聞くことはよくありました。決してそれが悪いことだとは思いませんが。能力を育てる教育だけでなく、私はこうしたいんだという気持ち、意志を一緒に育む場がもっと必要なんじゃないか。しかも子どもの頃から。そんな想いで、カリキュラムのないアトリエ教室Visions Paletteが誕生して8年目。大学院生の頃からアルバイトスタッフとして携わっていた私が、今はマネージャーになりました。
店舗も増えて、今は4店舗、約40人のスタッフで、小学生を中心とする約800人の生徒さんたちに向き合って、つくりたいものをつくる時間をサポートしています。今は関わる生徒たちの作品が私の作品のようにも思えます。先輩からVisions Paletteという場所が井元の作品なんだねと言ってもらったときに、あ、確かにそうなのかもと思いました。
子どもの頃の自分は、よく泣いていて、学校ではすごく静かな子でした。自分の似顔絵を描きましょうという授業で、私は自分を描くことがなぜかできず、隣の席の男子の自画像を模写して提出したほど。でも、家に帰ると、チラシやカレンダーの裏に、毎日、絵を描いていました。その絵をおじいちゃんがすごく褒めながら、もっとこうしてみたらどうだと言ってくれて、徐々に自信を持てるようになれた。おじいちゃんがVisions Paletteに近いことをやってくれていたんだなと思います。
つくりたいものをつくっていても、細かい作業が続くプロセスでは、子どもたちも「めんどくさい」「もうやだ」と言いはじめます。自由なVisions Paletteですが「大変だから途中でやめる」はNG。集中する気持ちよさ、つくり上げる嬉しさを知って、やりきる力のある子になってほしいからです。子どもたちも必死。講師たちも私も必死。生きてるというか、まわりのみんなに生かされているという感じ。その場所に浸り切る「一所懸命」なときが私はいちばん好きです。
東京藝術大学大学院芸術学専攻修士課程修了。専攻は銅版画。大学在籍中の2016年からアルバイトとしてVisions Paletteのスタッフに。卒業と同時に2店舗目の店長候補として株式会社パラドックスに入社。2019年から本格的に運営を引き継ぎ、2020年からマネージャーとして全店舗のマネジメントを担当。発達障害児支援士の資格も持ち、美術を通して子どもたちの生きづらさを解消していくこともテーマ。